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はじめに
カウンセリングルームに寄せられる相談のうち、自分の性格に関することは比較的高い割合を占めるように思われます。自分の性格とは一生付き合うことになるため、一度気になると持続した悩みになりやすいのかもしれません。
本コラムでは、性格の相談とはどのような悩みか、カウンセリングではどのように扱われているのかを紹介します。来室前にイメージを持って頂ければ幸いです。
性格の悩みとは
性格の悩みとはどのようなものでしょうか。このことを考えるために、そもそも性格とは何かについてのお話をさせて頂きたいと思います。書籍に当たってみると、
性格とはキャラクラー(character)の訳語であり、その語源はギリシャ語の「刻み込まれたもの」「彫りつけられたもの」を意味する言葉であった。そこから意味が転じて、どちらかといえば生まれながらの持続的で一貫した行動様式を示すものとなった。(玉瀬, 2004)
このことから、性格とは生まれながらに備わっているものと考えることが出来そうです。しかし、似たような意味を持つ人格(personality)という言葉があります。人格は厳密には社会的事由によって形成されたものと定義されているようですが、現代ではほぼ同義で用いられています。ここでは生得的な側面も環境によって形成された側面も合わせて、広く「性格」を定義しておこうと思います。
どのような相談が寄せられているか
続いて、性格の相談にはどのようなものがあるかをご紹介します。
人間関係と関連したもの
自分の性格に目が向くきっかけについて質問をすると、知人から指摘をされたエピソードや、同じような人間関係のパターンを繰り返していることに気が付いたことをお話しされる方が多いです。性格が他者との関係を通して可視化され、自覚するものであることを意味しているのかもしれません。そして、悩みとなるものは自分自身で扱うことがうまく出来ずに困っている側面となります。
このカテゴリーには、例えば他者に依存的になってしまうとか、人と打ち解けるのが苦手であるとか、すぐに怒りを向けてしまうなどが挙げられます。相手がいる関係で生じる悩みですね。
行動と関連したもの
忘れ物や大事な情報が抜けてしまうとか、すぐにパニックになってしまうとか、長続きしないなどは、日々の行動を改善したいという気持ちがあるからです。これらの行動の背景に自分の性格の影響を考えてしまう方は、様々な対策をしたけれど上手くいかなかった経験を持つ方が少なくないようです。
ただし、忘れ物をしてしまうという悩みでも、作業量が多いとパニックになって抜け落ちてしまう性格傾向から来るものと考えるか、メモを取る習慣をどのように定着させるかといった環境を整えることに焦点を置く行動面の課題として扱うかによって、その理解の仕方は異なります。この点はカウンセラーと共に考えていけると良いでしょう。
心の疾患や病気に伴うもの
悩みの背景に何らかの疾患や障害があり、医学的視点を持って理解をすることが必要となる場合もあります。この場合は、性格を考えることと並行して疾患への理解を深めていくことが必要になります。
気分障害(うつ病など)
気持ちが落ち込んでいる時は誰でも悲観的になり、新しいことにチャレンジすることが難しくなります。例えば、休職中にエネルギーが出てこないことを性格傾向の視点だけで理解しようとすると余計に辛くなります。まずは元気になることが優先されるべきでしょう。
パーソナリティ障害
パーソナリティ障害は一般的な性格傾向よりも程度が極端であったり、逸脱が生じている場合に診断がなされます。傾向によって細かく分類がされており、DSM-Ⅴの記載によると、
- C群:回避性(avoidant)、依存性(dependent)、強迫性(obsessive-compulsive)スキゾイド
- B群:境界性(borderline)、自己愛性(narcissistic)、演技性(histrionic)、反社会性(antisocial)
- A群:猜疑性/妄想性(paranoid)、スキゾイド(schizoid)、統合失調型(schizotypal)
に分類されています。カウンセリングも長期間になることが多く、時には医療機関との併用が必要になります。
発達障害の二次障害
発達障害自体は性格傾向に基づいた自己理解ではなく、行動傾向として理解を積み重ねていくほうが良いです。しかし、発達障害をお持ちの方は、失敗をすることが多かったり、他者からの批判を受けやすくなるため、性格形成に影響を及ぼすことがあります。
心的外傷後ストレス障害(PTSD)
トラウマとなる体験は、その後の性格形成に影響を与えることが知られています。緊張感や警戒心が持続するため、安心感を持ちにくい環境で長く過ごすことになります。この背景によって性格変容を引き起こすのでしょう。性格の相談を続ける中で、過去の体験に話が及ぶことは珍しいことではありません。体験が今の自分にどのように意味付けられているのかを理解することが大切です。
自分の性格を理解することのメリット
ここまでお読み頂くと、性格の悩みを相談することは、かなりデリケートな領域にまで踏み込まれることに気付かれるのではないでしょうか。他者に打ち明けることの勇気と覚悟が相当の大きさになることは想像に難しくありません。
性格の悩みについて考えていくことは、言い換えると自分の中でよく分からないことを分かるようにすることです。相談を続けて理解が深まっていくことで、これまで扱いきれずに振り回されていた自らの性格をコントロールできるようになり、安心して過ごせるようになります。自分の中にある得体の知れない感覚を手放せると表現することもできるかもしれません。また、性格の背景に存在するものを知ることで、自らの心の痛みやこれまでの努力に目が向くようになり、自分のことを以前よりも認められるようになるかもしれません。
性格を知るための方法は
性格を知るためには自分の内面を一度テーブルの上に置くことが必要になります。ずっと抱えたままでは眺めることが出来ないからです。そこで、他者の存在が必要になってくるのです。相手に一度持ってもらい、それを眺めるという印象でしょうか。しかし、日常ではそのようなお願いをすることは中々に難しいことです。相手に自分のネガティブな部分や弱い部分を見せることが、その後の関係にどう影響するかは当然考えるでしょうし、その負担に相手が耐えてくれるのだろうかと心配にもなるでしょう。そこで、カウンセリングの利用が必要になってきます。現実の利害関係がないカウンセラーとの関係では、自らのことを打ち明けやすくなります。
また、定期的にカウンセリングに通うことによって、自らの性格に目を向ける時間を安定して確保できることも大切なことです。なぜなら自分自身のことを考えることには負担を伴うこともあるため、なんとなく避けてしまいやすいものとなるからです。悩みを考え続ける上で、カウンセリングの枠組みはとても有効なものとして作用します。
カウンセリングの利用を考えるタイミング
最後に、どのような時にカウンセリングの利用を考えるべきかを記しておきたいと思います。一つは自分のことを好きになれず、そのことが仕事や私生活などに影響を及ぼしていると考えられる時です。自信が持てないと感じる時や、投げやりな過ごし方になっている時がポイントかもしれません。
また、他者から指摘された時も立ち止まって考えるタイミングかもしれません。指摘された事実があるということは、自分でも気付いていない側面を持っている可能性があるからです。その指摘が妥当かどうかを考えてしまう、指摘されたことが頭から離れないなどの時間が続くようであれば、一度自らを眺めてみることも良いでしょう。
参考図書
- 玉瀬 耕治(2004). 性格. 武藤 隆・森 敏昭(編). 心理学. 有斐閣.
- 日本精神神経学会(監修)(2014). DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル, 医学書院.